JAMA 一般社団法人日本自動車工業会 
 

会長コメント  2016年01月01日

年頭に際して


一般社団法人 日本自動車工業会
会長 池 史彦

 平成28年の新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

 昨年を振り返りますと、我が国の経済は、円安傾向や原油安などを背景に企業業績が概ね好調に推移するなかで、各種政策の効果も相まって雇用・所得環境の着実な改善が見られ、全体として穏やかな回復基調であったといえます。

  私ども自動車産業は、広範な関連産業を持ち、我が国の経済や雇用確保に大きく貢献する基幹産業であり、日本経済の更なる成長と日本の未来社会の創造に向けて、果たすべき役割は非常に大きいと思っております。
 本年も取り組むべき課題は多岐にわたりますが、業界を取り巻く環境変化を的確に捉え、以下3点を中心に積極的に取り組んでまいります。

<国内市場の活性化に向けて>
 国内自動車市場は、消費税増税の影響による落込みが長引くなか、昨年4月には軽自動車税増税もあり、1年を通じて前年割れとなるなど、非常に厳しい状況が続きました。本年もこの厳しい状況が続くことが予想されますが、日本の自動車産業の発展には、国内の自動車市場を活性化することが不可欠です。
 各社がより価値ある商品をお客様に提供できるよう努力するとともに、自動車業界全体で一丸となって、クルマ・バイクの魅力を積極的に発信してまいります。
 昨年10月に開催いたしました「第44回東京モーターショー2015」では各社が燃料電池自動車や電気自動車、プラグインハイブリッド車、自動運転車など最先端のテクノロジーを披露し、加えて60周年の節目を越えて最初に開催されたこともあり話題性も高く、おかげさまで国内外から81万人もの方々をお迎えすることができました。
 本年はショーの休催年に当たりますが、この勢いを絶やさぬよう、引き続きクルマ・バイクの魅力を精一杯訴えかけてまいります。

 さらに、国内市場の活性化に向けては、お客様がクルマ・バイクを購入・保有しやすい環境を整備していくことが重要です。我が国の自動車関連の税体系は複雑で、諸外国の水準を大幅に上回る過重な税負担が自動車ユーザーに課せられており、来年4月に消費税の再増税があることも踏まえると、国内市場活性化に向けては自動車ユーザーの過重な税負担軽減が不可欠だと考えます。
 平成28年度税制改正大綱において、新たに導入される環境性能課税の制度設計だけが先行決定されたことは、消費税増税時の自動車ユーザーの負担増を考えると残念でありますが、現行のエコカー減税制度に比べ課税対象が限定される等、自動車ユーザーの税負担増加に一定の歯止めがかけられたことは評価しております。
 また、当会が強く求めた自動車税引下げに関する具体的かつ明確な制度設計は今年決まらなかったものの、大綱に来年度の税制改正における保有時の税負担軽減に関する具体的な文言が盛り込まれたことを歓迎致します。

 二輪車においては、二輪車関連団体と地方自治体にて取りまとめた「二輪車産業政策ロードマップ」に掲げた二輪車の安全運転教育や啓発、免許取得時の負担軽減、駐車場整備や高速道路料金の適正化など利用環境改善に向けた諸課題への取組みを積極的に推進し、多くの方々の生活に密着する二輪車の利便性向上を図ってまいります。

<事業環境の改善に向けて>
 日本経済が持続的に成長していくためには、産業の活性化と国際競争力の向上が不可欠です。特に、我が国の産業が年々激しさを増すグローバル競争を勝ち抜き、世界中で存在感を高め続けるためには、国内での研究開発能力や、海外生産拠点に対するマザープラントとしての機能を強化することが非常に重要です。
 政府におかれては、事業環境の改善や国際競争力の維持・強化に向けて、企業の実質的な負担軽減のもとでの法人税改革の推進や研究開発投資環境の整備を着実に行って頂きたいと思います。
 また、グローバルに事業を展開する自動車業界にとって、経済連携交渉を推進し、貿易・投資の自由化とそれを支える共通ルールづくりを進めることも極めて重要です。昨年10月にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉が大筋合意に達しましたが、2年に渡り粘り強い交渉を続けられた日本政府関係者のご尽力に改めて敬意を表します。自動車業界としても本協定を活かし、お客様のニーズにあった商品・サービスをより幅広く提供することにより、日本経済の発展と域内経済関係の緊密化に貢献していく所存です。
 TPP交渉の大筋合意を契機として、今後、日−EU経済連携協定やRCEP協定(東アジア地域包括的経済連携)等、他の経済連携協定の締結に向けた交渉が一層加速することを期待しております。
 また、昨年末にはAEC(アセアン経済共同体)が発足し、アセアン単一市場として国際競争力を高めることが期待されております。アセアン地域に数多く進出している我々日系メーカーも、現地経済に貢献しながら更なる関係強化に努めます。

<安全・快適で持続可能なクルマ社会の創造>
 安全・快適で持続可能なクルマ社会を創造していくことは、私ども自動車業界の大きな使命です。全ての交通参加者の安全・快適かつ自由な移動の実現を目指し、特に「安全」と「環境」に関する諸課題について積極的に取り組んでまいります。

 「安全」に関しては、更なる交通事故の低減に向け、先進技術を活用した安全運転支援システムの普及やITS(高度道路交通システム)によるクルマとインフラが協調した予防安全技術の実用化に取り組んでいきます。
 自動運転については、昨年11月に自工会の考え方として「自動運転ビジョン」を取りまとめました。事故ゼロ・渋滞ゼロ・自由な移動と効率的な物流の実現を目標として、二輪車、自転車、歩行者を含む全ての交通参加者のために自動運転技術を役立てていくべく、2020年までを実用化・導入期、2030年までを普及拡大・展開期、2050年までを定着・成熟期と定め、関係各方面のご協力や社会的コンセンサスを得ながら、その導入と普及を積極的に推進してまいります。
 このような技術開発を中心としたハード面の取組みのほか、交通安全啓発活動や道路交通環境の改善に向けた提言など、ソフト面での取組みも引き続き積極的に推進し、世界で最も安全かつ効率的で自由なモビリティ社会の実現に向けて邁進してまいります。

 「環境」に関しては、地球温暖化を食い止める取組みが大変重要です。
 昨年末のCOP21において、発展途上国を含むすべての国・地域が協調して温室効果ガスの削減に取り組む新たな枠組み「パリ協定」が採択されました。自動車業界としても、日本政府が掲げる2030年度の温室効果ガス排出量削減目標の達成に向け、燃料電池自動車、電気自動車、プラグインハイブリッド車、クリーンディーゼル車など次世代自動車の開発・普及や、従来型内燃機関のさらなる性能向上、交通流対策やエコドライブなど統合的アプローチを推進していきます。燃料電池自動車、電気自動車、プラグインハイブリッド車の普及には、インフラの先行整備が必要なことから、関連業界と協力を図るとともに、車両普及やインフラ整備に対する一層の支援を政府に求めていきます。
 またPM2.5などの大気環境改善や自動車リサイクルなど様々な環境問題に関して引き続き日本の自動車産業が世界に貢献できるよう、全力を挙げて取り組んでまいります。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、世界に日本の技術力をアピール出来る絶好の機会と捉えております。私ども自動車業界も一丸となり、2020年という節目、さらにはその先も見据えて、未来のモビリティと夢のある豊かなクルマ社会の実現に向けて、政府をはじめ関係各所と連携を図りながら、着実に歩を進めてまいります。

 本年も、皆様方の一層のご指導、ご鞭撻を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

以 上