JAMA 一般社団法人日本自動車工業会 
 

会長コメント  2010年10月08日

地球温暖化対策基本法案の閣議決定について(共同提言)


石油連盟 会長 天坊 昭彦
社団法人セメント協会 会長 徳植 桂治
電気事業連合会 会長 清水 正孝
社団法人日本化学工業協会 会長 藤吉 建二
社団法人日本ガス協会 会長 鳥原 光憲
一般社団法人日本自動車工業会 会長 志賀 俊之
日本製紙連合会 会長 篠田 和久
社団法人日本鉄鋼連盟 会長 林田 英治

地球温暖化対策は、将来に亘り我が国の経済・雇用・家計に大きな影響を及ぼす極めて重要な課題。中長期目標ありき、個別施策の導入ありきで基本法案が閣議決定されたことは極めて遺憾。

 10月8日、地球温暖化対策基本法案が再び閣議決定され、今国会に提出されることとなった。

 去る3月12日、国民への十分な判断材料の提供や、開かれた国民的議論もない中で、地球温暖化対策基本法案が閣議決定された際、私たち産業界は、遺憾の意を表明するとともに、国会等における具体的な内容の審議・検討に当たっては、国民の理解と納得を得られるよう、十分に時間をかけ必要な手続きを踏まえていただくよう強く要請したところである。

 しかしながら、現時点において、下記(1)、(2)に示すとおり、国民の理解と納得を得るための十分な手続きが踏まれたとは到底言いがたく、こうした状況の下で、今般再び地球温暖化対策基本法案が閣議決定されたことについては、極めて遺憾であると言わざるを得ない。

(1)温室効果ガスの中期削減目標について

 国際的に突出して厳しい我が国の中期削減目標について、次に掲げる「実現可能性」、「国民負担レベルの妥当性」及び「国際的な公平性」の視点からの検証がなされたとは言えない。特に、中期削減目標が我が国経済、国民生活や雇用に与える影響については、検証を行う際の最も重要な判断材料であるにもかかわらず、そもそもプラスの効果であるかマイナスの効果であるかという基本的な事項についてすら見解が分かれる等、未だに政府としての統一した見解が示されていない。私たちは、国会審議に先立ち以下の3点を要請する。

  1. どの分野において、どのような技術を用いて、どれだけの温室効果ガスを削減するのかを明らかにし、経済成長戦略とも整合のとれるロードマップを策定すること。(実現可能性)
  2. 当該ロードマップを実行するために必要なコスト、ならびに我が国経済、国民生活や雇用に与える影響と、国民負担を明らかにすること。(国民負担レベルの妥当性)
  3. こうした点を踏まえた上で、各国が国連に提出した目標水準の検証を行なう等により、「前提条件」が満たされたか否かの判断を含め国際的な公平性を確保すること。(国際的な公平性)

(2)基本的施策(排出量取引制度、地球温暖化対策税、固定価格買取制度)について

 本来、基本的施策はそれぞれ個別に論じられるべきではなく、地球温暖化対策全体の中でのそれぞれの施策の位置づけ、中長期目標との関係等を明確にした上で、政府一体となった総合的な検討を進める必要があるが、こうした検討は未だ行われていない。

 また、既に世界最高のエネルギー効率を達成している我が国においては、具体的な技術に立脚した合理的なCO2の削減余地は極めて限られている状況にある中で、各政策の効果、コスト、我が国経済・産業への影響等について検討がなされたとは言えず、このような状況のまま、基本的施策の導入が先行すれば、企業の海外移転や雇用の悪化等、我が国経済への悪影響が懸念される。

 特に昨今、少子高齢化等による国内市場の縮小、世界で最も高い法人税、さらには急激な円高等、産業を取り巻く情勢はますます厳しくなってきている。多くの日本企業は、生き残りをかけて制約の少ない海外に生産拠点を移さざるを得ない状況にあり、その結果、雇用、税収、技術等の海外流出も必至の状況におかれている。一方で、日本の産業基盤を支えてきた主に国内に拠点を置く中小企業や労働者は、容易に海外へ出ていけないという現実も踏まえなければならない。

 こうした現下の極めて厳しい経済環境を踏まえ、「新成長戦略」の速やかな実行によって投資の拡大や雇用の安定を図ることが最優先されるべき時期に、国内産業にさらなる不合理な負担や制約を課すことに繋がる地球温暖化対策基本法案が国会に再提出されることには大きな疑問を抱くものである。

 そもそも地球温暖化対策のように、長期にわたり、経済や国民生活に大きな影響をもたらす政策については、あらゆる叡智を結集して科学的、客観的な分析を徹底的に行い、党派を超えた国民的議論が行われるべきものと理解している。

 私たち産業界は、地球規模での温暖化対策の推進に積極的に貢献するとともに、政府が推進する地球温暖化対策の検討プロセスに積極的に参加、協力する意思を有し、現に、9月14日付けで日本経団連による提言『地球規模の低炭素社会の実現に向けて』を発表する等、日本の優れた技術を武器とした国際貢献や製品段階での貢献等について、具体的な提案を行っている。政府におかれては、90年比25%削減という国際的にも不公平で、莫大なコストがかかり、産業界への活動制約となる排出削減目標を掲げるのではなく、我が国産業が有する世界最高水準の省エネ・環境技術を活用して地球規模での温暖化対策に貢献すると同時に、我が国が技術・産業立国としてさらなる発展を遂げうる真の「環境と経済を両立させる」施策が実現されるよう切に願うものである。

 

以 上