JAMA 一般社団法人日本自動車工業会 
 

会長コメント  2010年01月01日

年頭に際して

日本自動車工業会
会長 青木 哲

新年明けましておめでとうございます。年頭にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。

昨年は、日本の自動車産業が今まで経験したことのない急激な経済環境の変化に直面した激動の一年となりました。
世界経済は、一昨年秋に始まった世界的な経済危機の影響により、年初から深刻な事態に陥りました。その後の世界各国の迅速な経済政策の発動や中国、インドなどの新興国経済の回復により、景気の悪化は底を打ったものと思われますが、国内外ともまだまだ回復に力強さは感じられません。
また、政治の状況は、日本では鳩山政権が誕生、アメリカではオバマ政権が発足するなど大きな変革が起こった年となりました。

このような状況下にあって、厳しい雇用・所得環境による消費の冷え込みの影響は大きく、昨年の国内自動車需要は、四輪車が4,612千台(対前年比90.7%)と5年連続して減少、また、二輪車は432千台(対前年比76.3%)と4年連続の減少となりました。
しかしながら、低炭素車への代替・普及促進に資する自動車重量税・自動車取得税の減免措置や環境性能に優れた自動車の購入補助制度の効果により年後半になって四輪車需要は前年を上回り、最悪の状況は脱したと感じています。<*数値は見込み>

自動車の生産・輸出も、各国の自動車購入促進策や新興国を中心とした需要の回復が見られたものの、世界経済の悪化を色濃く反映し、大幅な減少を余儀なくされました。

本年につきましても、経済の急速な回復は期待できず、為替や株価の変動リスクも懸念されるなど決して楽観できる状況にはありませんが、政府による経済対策の実施などにより、景気回復が確実なものとなることを強く期待しております。

このように経済環境は未だ不透明な状況ですが、本年の国内需要の見通しにつきましては、四輪車は、エコカーに対する税の減免措置の継続、購入補助制度の延長による効果等を踏まえ、4,798千台(対前年比104.1%)、一方、二輪車は、排出ガス規制対応による車両価格の上昇や都市部における二輪車駐車場不足の影響から需要の回復は見込めず、404千台(対前年比93.5%)といたしました。

日本の自動車産業は、我が国の幅広い関連産業からなる基幹産業であり、日本経済や地域社会の発展に寄与するという大きな使命と責務を担っております。
関係省庁・関係業界などあらゆる方面の皆様とも緊密かつ迅速な連携を図りつつ、この困難な局面を乗り切り、その役割を全うしてまいります。
自動車産業が克服すべき課題は多岐にわたり、様々な角度から同時並行的に取り組むことが求められています。以下、特に重点と考える課題への取り組みについてご紹介いたします。

 

<安全と環境への取り組み>
安全については、引き続き、交通事故の低減と被害軽減に取り組みます。
2009年の交通事故死傷者数は9年連続減少となることがほぼ確実となりました。「人」「クルマ」「道路環境」への対策が奏功しているものと考えられます。
私どもは、車両単体の技術に止まらず、官民共同の ITS(高度道路交通システム)プロジェクトなど交通システム全体を視野に入れた先進的予防安全技術や衝突安全技術の開発・普及を進めるとともに、交通安全啓発や道路環境対策への提言活動を推進してまいりました。
これからも引き続き、これらの活動を通じて、政府が掲げる「世界一安全な道路交通の実現」に向けて、ハード・ソフトの両面にわたり積極的に貢献してまいります。

環境については、地球温暖化対策が最重要課題です。

昨年、政府は2020年までの温室効果ガス排出量を1990年比マイナス25%とする極めて厳しい目標を国際社会に表明いたしました。
温暖化対策は、今後長きにわたり国民生活や経済・雇用に大きな影響を及ぼすものであることから、目標達成のための具体的な政策の立案の際には、経済・雇用に及ぼす影響、国民の負担増などを提示した上で、国民各層、各界の意見が反映されることが必要と考えます。
昨年末に開催されたCOP15では、2013年以降の温暖化対策の新たな国際枠組みについて各国の合意が得られませんでした。地球規模での温暖化問題は、我が国一国の努力だけでは解決できないことは言うまでもなく、今後とも、総理のご発言にある「温室効果ガス排出削減目標については、全ての主要国の参加による意欲的なもので合意することが、国際社会へ約束する前提にある」という考え方を堅持して、世界の全ての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築に全力を尽くしていただきたいと思います。

自動車業界としては、従来から地球温暖化防止に向けた様々な取り組みを行なってまいりましたが、引き続き低炭素社会の実現を目指し、低燃費技術や次世代自動車の開発、低炭素車への代替・普及促進、交通流円滑化のための道路施策の調査・提言、エコドライブの推進等、道路交通分野における総合的な対策への取り組みを一層加速してまいります。
また、生産段階においても、昨年、(社)日本自動車車体工業会会員会社と共同で、工場から排出されるCO2排出量の自主削減目標値の引上げを行なっており、その着実な実施に努めてまいります。

 

<自由貿易推進のための国際的な相互理解と協力の促進に関する取り組み>
自由貿易体制の推進と公正なビジネス環境の整備は、グローバルに事業展開を行なっている自動車産業にとっても極めて重要な課題です。
WTOドーハラウンドの早期合意やEPA/FTAの推進は、世界経済全体の成長にとって重要な課題であり、現在の厳しい経済状況下において、その回復と安定に繋がるものと期待しております。

二重課税など国際課税問題も、事業のグローバル化とともに顕在化しており、企業が不当な負担を強いられることがないよう国際的な調整が必要です。
また、知的財産権の侵害は、公正なビジネスを阻害するだけでなく、経済的損害はもとより、消費者の健康や安全への脅威である偽造品・模倣品の世界拡散という問題を招いており、その対策が急務です。
これらの諸課題に対し、関係各国の政府・業界との緊密な関係を通じ、日本政府の活動を積極的に支援してまいります。

 

<クルマの夢・楽しさの訴求と快適な利用環境への取り組み>
昨秋開催の第41回東京モーターショーは、前回より来場者が減少したものの、引き続き多くのクルマファン・バイクファンの皆様にお越し頂きました。最先端の環境技術を搭載したモデルを熱心に見られる方々、最新のクルマ・バイクの試乗にご応募頂いた多くのファンの姿を見て、主催者としてこれらの皆様の期待に応えなければならない責任を痛感致しました。
業界としては、環境に優しい次世代自動車をはじめとする最先端技術をいち早く市場投入していくことはもちろんのこと、常に、多様化するお客様ニーズに対応した魅力ある商品の提供に努めるとともに、クルマ・バイクの夢、楽しさ、素晴らしさを積極的に訴求し、市場の活性化に努めてまいります。

また、お客様がより快適にクルマ・バイクを利用していただくためには、ユーザーの過重な税負担を軽減することも重要です。
日本の自動車ユーザーの負担は国際的に見ても非常に高く、すでに課税根拠を失っている暫定税率が、一部を除き、今後も形を変えて維持されることは誠に遺憾です。業界としては、引き続き、自動車関係諸税の簡素化・軽減に向けた働きかけを行なってまいります。
なお、政府では地球温暖化対策税の導入が検討されておりますが、新税の導入ありきではなく、国際競争力や雇用・国民生活への幅広い影響を考慮した議論の必要性を訴えてまいります。

さらに、ユーザーの利便性を高めるために、都市部における二輪車駐車場整備に向けた要望・提言、福祉車両の開発・普及にも一層注力してまいります。

最後になりますが、本年も、会員各社の協力の下、豊かなクルマ社会の実現に向けて、積極的に事業を展開してまいりますので、今後とも、皆様方の一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 

以 上